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はたもとたいくつおとこ

旗本退屈男

佐々木 味津三

Read 旗本退屈男 (はたもとたいくつおとこ) by 佐々木 味津三 (ささきみつぞう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 240,656 characters · 478 screens

Aozora Bunko

いかほど御潔白でござりましょうとも、白を黒と言いくるめられて、お身のあかし立ちませぬ節は何と遊ばすお覚悟でござります」

「潔白なるもの、潔白に通らぬ世の中ならば、こちらであの世へ逃げ出すだけのことよ。上様お待ちかねじゃ。早うせい」

悠然と坐り直して、その首を京弥の前へさしのべました。

しかし寸毫の油断もない。襲って来たら開いて一閃、抜く手も見せじと大刀膝わきに引きよせておいて、じろりと十人の目の動きを窺いました。

京弥もまた月代を剃りながら油断がないのです。

「おのびでござりまするな」

「そちと比べてどうじゃ」

「手前の何とでござります」

「鼻毛とよ」

「御笑談ばっかり、おいたを仰せ遊ばしますると傷がつきまするぞ」

ジャイ、ジャイと剃りながらも、京弥の目はたえず十人の身辺へそそがれました。

ひと剃り、ふた剃りと、青月代に変るにつれて、江戸に名代の眉間傷も次第にくっきりと浮き上がりました。

したたるその傷!

やがて月代は青ざおと冴え返って、三日ノ月型にくっきり浮き上がった傷がふるいつきたいようです。

「いちだんとお見事でござりまするな。京弥、惚れ惚れといたしました」