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はたもとたいくつおとこ
旗本退屈男
佐々木 味津三
Read 旗本退屈男 (はたもとたいくつおとこ) by 佐々木 味津三 (ささきみつぞう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 240,656 characters · 478 screens
「黙れッ! たわけッ。佞人ばらとは何じゃ! 誰のことじゃ!」
「すなわち腰本治右衛門、まったお紋の方様、倶に天を戴きかねる佞人にござります」
「黙れッ。黙れッ。紋が佞人とは何じゃ! お紋は予が寵愛の女、またなく可愛い奴じゃ。たわけ申すと許さぬぞッ」
「それこそ佞人の証拠、御明君のお目を紊し奉つるが何より佞人の証拠にござります。上は天晴れ御明君、われら直参旗本が自慢の御明君――」
「黙れッ、黙れッ、黙らぬかッ」
「いいや、上は御明君、天下に誇るべき御明君、主水之介もまたつねづねそれを思い、これを思い――」
「黙れと申すに黙らぬかッ」
「いいや、上は天晴れ御明君、天下二なき御明君を戴き奉つることほど、よろこばしき儀はござりませぬ。女魔と申すものはとかく美しきもの、御寵愛はさることながら、それゆえにお上ほどの御明君が、正邪のお目違い遊ばされたとあっては由々しき大事、只々御明察のほど願わしゅうござります……」
一にも明君、二にも明君、只明君々々と明君ずくめで押し通しました。賢明な策です。暗愚と言われたよりも明君と言われたら、八百万石のお心持も、さぞやいいお心持だったに違いない。