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あらじょたい
日本の文学 9 徳田秋声(一)
徳田 秋声
Read 日本の文学 9 徳田秋声(一) (あらじょたい) by 徳田 秋声 (とくだしゅうせい) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 346,393 characters · 692 screens
た。浜へ行くといって潔く飛び出した父親の頭脳には何の成算もなかった。
父親が立ち停ると、お庄もまた立ち停るようにしては尾いて行った。するうちに、父親の影が見えなくなった。道の真中へ出てみても、端の方へ寄ってみても見えなかった。
「お前気が弱くて駄目だで、どうでもお父さんに押っ着けて来るだぞえ。」
お庄は、主婦が帽子や袖無しも持って来て、いいつけたことを憶い出しながら、坂を降りて、暗い方へ曲って行った。おろおろしていた母親の顔も目に浮んだ。
お庄は広々した静かな眼鏡橋の袂へ出て来た。水の黝んだ川岸や向うの広い通りには淡い濛靄がかかって、蒼白い街燈の蔭に、車夫の暗い看板が幾個も並んでいた。お庄は橋を渡って、広場を見渡したが、父親の影はどこにも見えなかった。お庄は柳の蔭に馬車の動いている方へ出て行くと、しばらくそこに立って見ていた。駐った馬車からは、のろくさしたような人が降りたり乗ったりして、幾台となく来ては大通りの方へ出て行った。
暗い明神坂を登る時分には、背で眠った弟の重みで、手が痺れるようであった。
「それじゃまたどこかそこいらを彷徨いているら。」と、主婦は独りで呟いていたが、お庄は母親に弟を卸してもらうと、帯を結え直して、顔の汗を拭き拭き、台所の方へ行って餉台の前に坐った。