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あらじょたい
日本の文学 9 徳田秋声(一)
徳田 秋声
Read 日本の文学 9 徳田秋声(一) (あらじょたい) by 徳田 秋声 (とくだしゅうせい) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 346,393 characters · 692 screens
五十
「何だか窶れているようだね。」
笹村は腺病質の細いその頚筋を気にした。
「いいえ、そんなことはないでしょう。随分元気がいいんですよ。お父さんはと聞くと、電車ちんちん餡パン買いに行ったなんて、それは面白いことを言いますよ。」
「ふとしたら、僕甥が一人来るかも知れんがね。とうとうまた推っつけられた。」
笹村は久しぶりでお銀と一緒に書斎へ入った時言い出した。そのことはお銀も待ち設けないことでもなかった。
お銀は浮き浮きした調子で、飲みつけない莨を吸いつけて笹村の口に当てがいなどした。
五十
旅で養って来た健康は、じきに頽れて来た。田舎の母の同居してる家では、リュウマチを患っている老人のために、上州の方から取り寄せられた湯の花で薬湯がほとんど毎日のように立てられた。笹村もそのたんびにその湯に浸った。それにそこは川を隔ててすぐ山の木の繁みの見えるところで、家の周りを取り繞らした築土の外は田畑が多かった。広縁のゆっくり取ってある、廂の深い書院のなかで、たまに物を書きなどしていると、青蛙が鳴き立って、窓先にある柿や海棠林檎の若葉に雨がしとしと灑いで来る。土や木の葉の匂いが、風もない静かな空気に伝わって、刺戟の多い都会生活に疲れた尖った神経が、軟かいブラシで撫でられるようであった。