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あらじょたい
日本の文学 9 徳田秋声(一)
徳田 秋声
Read 日本の文学 9 徳田秋声(一) (あらじょたい) by 徳田 秋声 (とくだしゅうせい) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 346,393 characters · 692 screens
」
お庄はそう言いながら、奥の箪笥のうえに置かれた鏡の前に立って、髪を直していた。磯野とお増と三人で、晩に寄席に行く相談が、飯の時取り決められてあった。磯野はお増に寄席を強請られると、そのつもりで、飯が済んでからお増と一緒に、一旦帰って行った。
お庄は顔も化粧り、着物も着替えて待っていたが、時計が七時を打っても八時を打っても誰も来なかった。お庄はじっとして落ち着いていられなかった。
軒の外へ出て見ると、雨がしぶりしぶりと降り出している。お庄は出たり入ったりしていたが、待ちきれなくなって、傘を持ち出して、つい近所のお増の宿の前まで様子を見に行った。
お増の宿は、その番地の差配をしている家の奥の方の離房で、黒板塀の切り戸を押すと、狭い庭からその縁側へ上るようになっている。お庄はその切り戸の節穴から、そっと裏を覗いてみると、離房の方の板戸は、ぴったり締っていて、中に人気もしなかった。お庄は急いで天神の通りの方へ出て行った。
磯野の叔父の家では、やっと飯を済ましたところであった。叔父は茶の室の火鉢のところに胡坐を組んで、眼鏡をかけて新聞を見ていた。
お庄は上り框のところに膝を突いて、奥の方を覗き込んだが、磯野は三時ごろにぶらりと出て行ったきり、まだ帰っていなかった。