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あらじょたい
日本の文学 9 徳田秋声(一)
徳田 秋声
Read 日本の文学 9 徳田秋声(一) (あらじょたい) by 徳田 秋声 (とくだしゅうせい) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 346,393 characters · 692 screens
長いあいだ貧しい自分を支えてくれた細君の好意や伎倆も考えないわけに行かなかった。
「離縁するほどの悪いことを、私に対してしていないんだから困る。」
浅井は時々思い出したように、当惑の眉を顰めた。そのたびにお増は顔に暗い影がさした。
「あなたは一体気が多いんですよ。」
お増は男の心が疑われて来た。
「どっちへもいい子になろうたって、それは駄目よ。」
お増はそうも言ってやりたかったが、別れさしてからの、後の祟りの恐ろしさがいつも心を鈍らせた。
浅井の帰って行ったとき、細君は奥で子供と一緒に寝ていたが、女中に何か聞いている良人の声がすると、急いで起きあがって、箪笥のうえにある鏡台の前へ立った。そして束髪の鬢を直したり、急いで顔に白粉を塗ったりしてから出て来た。
「お帰んなさいまし。」
細君は燥いだ唇に、ヒステレックな淋しい笑みを浮べた。筋の通った鼻などの上に、斑になった白粉の痕が、浅井の目に物悲しく映った。
「この前、愛子という女が、京都から訪ねて来たときも、こうだった。」
浅井はすぐその時のことを想い出した。その時は浅井の心は、まだそんなに細君から離れていなかった。