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あさくさふどき
浅草風土記
久保田 万太郎
Read 浅草風土記 (あさくさふどき) by 久保田 万太郎 (くぼたまんたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 162,294 characters · 318 screens
“奥の常盤”になるまえは、その建物、浅草五けん茶屋の一つにかぞえられた“万梅”で、手堅い、つつましい、閑寂な感じの黒塀を、その榎の下にめぐらしていたのだが、“奥の常盤”になって、“湯滝”を売りものにするまでに俗化し、従って、その表構えでも、その一部に、下駄穿きで自由に出入できる食堂を設備したりの、太だ解放的なものに改めた。
しかし、その“奥の常盤”も、やがてその営業権を“大増”にわたした。“大増”は、うけついで、昭和二十年三月、空襲で、浅草寺とともに焼けるまで、長の年月、変転つねなき時代とよくたたかいつづけた。
が、いまや亡し。……と、ぼくの、とくにこれを惜むのは、“大増”を惜むのではなく、仲見世に於けるその位置の、大きな榎の立ち並んだありし日のふぜいの、ついに永久に失われたのを哀しむのである。
閻魔堂と地蔵堂とは、大正十二年の震災以後、仲見世からすがたを消したのだが、久米の平内だの、塩なめ地蔵だの、岡田だの、宇治の里だの、だるまだの、金龍山浅草餅だのは、戦争でなくなった。紅梅焼は売っているかも知れないが、紅梅焼屋はなくなった。……というのは、嘗ては……明治の末までは、店さきで、五六人の髪をシマダに結った若い女たちが、赤いタスキをかけ、鉄板をのせた横長の火鉢のまえに向き合って、その紅梅焼を焼いていたので