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あさくさふどき
浅草風土記
久保田 万太郎
Read 浅草風土記 (あさくさふどき) by 久保田 万太郎 (くぼたまんたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 162,294 characters · 318 screens
二十数隻の空母、十数隻の戦艦を集結して、サイパン島周辺に再現し、同十五日、ついに二度の撃退にもめげず、同島への上陸を敢行……と、いまもいま、夕刊でかれは読んだ……
敵国降伏大秘法修行中
かれの目の、知らず知らず、その烈しい文字の上に喰い入っているのを、かれは感じた。
「一生けんめい。……一生けんめいなんだ、みんな……」
と思うと、間断なき参詣人の足音さえ、広い御堂のなかに、ただならぬひびきを返した。
その息苦しい空気……
そのなかで、かれは、つつしんで味方の必勝を祈願した。……そのあとで、いのちがあり、生きてまた東京の土をふむことのできた身の仕合を、しみじみありがたく感謝した。
……わけもなく、かれは、泪のこぼれるような気がした。
が、参詣をすませ、しばらくして、御堂の横へ立ちいでたかれは、
「十五年。……そんな月日がいつすぎたろう?」
と、われとわが身をうたがわないわけに行かなかった。それほど、その石段の下にひらけた境内のけしきは……どこもかも銀杏のしげりの、その夢のようなむらがりにつゝまれた五重の塔でも、二天門でも、三社さまの鳥居でも、嘗て、毎日のようにかれのみつづけた時分と、すこしの変化もしていなかったのである。