Japanese reading practice

Read classic Japanese books with furigana

ja-reading.com

Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.

ひのとびら

火の扉

岸田 国士

Read 火の扉 (ひのとびら) by 岸田 国士 (きしだくにお) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 129,467 characters · 257 screens

Aozora Bunko

とつぜん、市ノ瀬牧人は、立ちあがるといつしよに言つた。

「そうねえ、べつに……」

「わしにはどんなものがえゝかわからんで……。じや、ごめんなすつて」

出て行こうとして、今日はなぜかいつもほど晴れ晴れとした気持になれないことを、市ノ瀬牧人は感じた。

井出夫人の目礼には、相変らずの微笑があふれ、どこがどうと変つたところはないのだが、たぶん話題のせいであろうと思う。

それにしても、井出夫人は、今日は最初からふだんよりも鋭さを示してはいなかつたろうか? おなじ無遠慮な口をきくにしても、いつもはもつとふわりとした手ざわりのもので、あとへなにひとつ苦みはのこらないのに、今日に限つて、じようだんのつもりではあろうが、あの、ちくり/\と批評めいた言葉をはさむことが、そも/\今日の会話をあと味のわるいものにしたのではあるまいか? しかし、ほんとにあと味がわるいと言えるか、と、自分自身に問うてみれば、決してそうとばかりも言えないのである。今まではどちらかと言えば、たゞとりとめもない話がおもで、一個の女性のにおやかな肉体と精神の火花が彼をわけもなく酔わせていたにすぎなかつた。