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ひのとびら

火の扉

岸田 国士

Read 火の扉 (ひのとびら) by 岸田 国士 (きしだくにお) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 129,467 characters · 257 screens

Aozora Bunko

と、そのとき、廊下で、――こゝだ、こゝだという男の声、それと同時に、ドアを激しくたゝくものがあつた。

筒井レイ子は、舌うちをして、ドアをあけた。

「ユキちやんが、いややて。マーさん、あんたじかに頼んだらえゝ。今夜は男やない言うて頼まんとあかん」

マーさんなる男は、なるほど酒に弱そうな男で、からだが先へまいつていることがわかつた。

「お願い、ユキちやん、どこでもえゝ。あゝ、もう動けん」

と、彼は、ドアによりかゝつたまゝずる/\とすべるようにしりをつき、そのまゝ首をがくりと垂れて眠つてしまう。

北原ミユキは、男を見おろしながら、もじ/\していた。

「まあ、こういう次第やから、ユキちやん、そないやかましいこと言わんと……さあ、ほつといて、寝たらえゝんや。うち、おひやほしわ」

そう言いながら、火のない火ばちにかゝつた薬かんの口から、ゴクゴク、水を飲んだ。

大風一過というおもむきであつた。

北原ミユキは、もう出るにも出られず、そうかと云つて、すぐに床を敷くでもなく、部屋の一ぐうへちよこなんとすわり、筒井レイ子のすることをじつとみていた。

筒井レイ子は、自分の夜具を敷いてしまうと、北原ミユキの分も引つぱり出して隣りへ敷いた。