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ひのとびら
火の扉
岸田 国士
Read 火の扉 (ひのとびら) by 岸田 国士 (きしだくにお) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 129,467 characters · 257 screens
「自分のいうことに自分で酔つちやだめだ。わしらもよく、自分自身にこびた、自分の好みに通した考え、というやつをもてあそんで得意になることがあるが、こいつは警戒せにやならんと思う。真実つていうもんは、どうにもならんもんだでなあ」
「あんたは、なんでもぶちこわそうとするから、きらい!」
と、北原ミユキは、すこし、ヒステリカルになつて言つた。
「そんな気は毛頭ないに、わしは。あんたがほんとに大事にしとるもんは、わしも大事にせにやならんと思ふとるんだに。あんたぐらい真剣にものを考えるひとが、どうしてそんなことがわからんのだろう? 今すぐとは言わんで、ゆつくりわしの言つたことを味つてみておくれんか」
玄関先で案内をこう男の声がした。
だれも出る様子がない。
市ノ瀬牧人は、つか/\と出て行つた。
客は背広を着た若い男で、眼ざしは知的な輝きをもつているけれども、どことなく皮肉な影をくちびるのあたりに漂わせ、一見病身であるということが察せられた。
八
「こちらに井出さんの奥さんはおいでですか?」
「おられますよ」
「ちよつとお目にかゝりたいんですが……」
「あなたは?」
「名前を言つてもご存じないはずです。