Japanese reading practice

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ひのとびら

火の扉

岸田 国士

Read 火の扉 (ひのとびら) by 岸田 国士 (きしだくにお) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 129,467 characters · 257 screens

Aozora Bunko

そうひとりで占領した気ならんでおくれない」

この抗議は、北原ミユキを吹きださせた。

「あら、いやだ。あたしが大好きじやどうして……?」

と、あとは眼つきで、その意味をたしかめようとした。

「…………」

市ノ瀬は、無言のまゝ、片ほおに微笑をうかべていたが、やがて、

「なに、先生があの奥さんを大好きなのはいゝさ。だれに遠慮することもいらんさ。先生とあの奥さんとが仲善しだつていうことは、わしもちやんと知つとるし、みんな知つとるこつた。それはそれでいゝに。しかし、先生が、あんまり大好きだ、大好きだつていうと、すこし変な気のするもんがおりはせんかな」

「だれな、それは?」

「さあ、だれだろう?」

「ふん、まさかだんなさまでもなかろうに」

と、市ノ瀬牧人は、それにかまわず、

「わしは、たつた一度あの奥さんと口をきいたきりだが、たつた一度きり口をきいて、もうどうしても忘れられんという女性は、おそらくわしの生涯であの奥さん一人きりだと思うとるに」

こういう彼の口調があまりに荘重なので、北原ミユキは、もう笑うのをやめはしたが、

「市ノ瀬さん、あんた、気はたしかでおありる? そんなことつてあるかしら?」