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かせいのまじゅつし
火星の魔術師
蘭 郁二郎
Read 火星の魔術師 (かせいのまじゅつし) by 蘭 郁二郎 (らんいくじろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 151,120 characters · 302 screens
夢鬼
一
一ノ二
一
辺鄙な、村はずれの丘には、いつの間にか、華やかな幕を沢山吊るした急拵えの小屋掛が出来て、極東曲馬団の名がかけられ、狂燥なジンタと、ヒョロヒョロと空気を伝わるフリュートの音に、村人は、老も若きも、しばし、強烈な色彩と音楽とスリルを享楽し、又、いつの間にか曲馬団が他へ流れて行っても、しばらくは、フト白い流れ雲の中に、少年や少女の縊れた肢体を思い出すのである。
トテモ華やかな、その空気の中にも、やっぱり、小さな「悩める虫」がいるのだ。
一ノ二
「莫迦ッ、そんな事が出来ねエのか、間抜けめ!」
親方は、野卑な言葉で、そう呶鳴ると、手に持った革の鞭で、床をビシビシ撲りつけながら、黒吉を、グッと睨みつけるのだった。
まだいたいけない少年の黒吉は、恐ろしさにオドオドして、
「済みません、済みません」
そんな事を、呟くようにいうと、ぼろぼろに裂けた肉襦袢の、肩の辺を擦りながら、氷のように冷めたい床の上に、又無器用な体つきで、ゴロンゴロンと幾度も「逆立ち」を遣り直していた。
饑じさと、恐ろしさと、苦痛と、寒気と、そして他の座員の嘲笑とが、もう毎度の事だったが、黒吉の身の周りに、犇々と迫って、思わずホロホロと滾した血のような涙が、荒削りの床に、黒い斑点を残して、音もなく滲み込んで行った。