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かせいのまじゅつし
火星の魔術師
蘭 郁二郎
Read 火星の魔術師 (かせいのまじゅつし) by 蘭 郁二郎 (らんいくじろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 151,120 characters · 302 screens
三ノ二
葉子は、瞬間、ハッと胸の中が、空虚になったように感じた。それと同時に、こみ上げて来たのは、クラクラするような、倒錯した恍惚感だった……。
葉子は、ふと気がついたように、四囲りを見廻してみると鼻血を出した為か、もう黒吉の姿はなく、他の少年座員達が何か密々と囁き合いながら、銘々に稽古を始めるところだった。
(黒ちゃんの事を、噂してんだわ)
葉子は、そう思いながら、黒吉を捜す為にようやく立上った。
方々捜しあぐねて、櫓の日当りに、黒吉の姿を見つけると葉子は、直ぐ飛んで行った。
「黒ちゃん、すごいわねエ、あんなに勇気があると思わなかった」
「すごかないさ、葉ちゃん見てたの」
黒吉は、鼻血は止ったけれど、まだ腫れ上った体を擦りながら、それでも、嬉しそうだった。
「見てたわよ、鼻血出したんで驚いちまったの……、あら、真赤よ、血が滲んでいるわ」
葉子は、何故か、しげしげと、その赤く膨脹て、毛穴に血を含んだ黒吉の肩を、見詰めた。
三ノ二
櫓は、一杯の明るい日射しを受けて、ぽかぽかと暖かく、四辺りには、他に人影が見えなかった。
「血が出てる? アッ、触っちゃ痛いよ」
「…………」