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しほんたいへいき
私本太平記(一)
吉川 英治
Read 私本太平記(一) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 246,214 characters · 495 screens
いつか、新田の老臣という者が、義貞の代りに、見舞と称して、ここを覗いた折も、
「もし足利家の御安泰をのぞむなら、ここはお目をふさいで、御出家あるのが、唯一の良策ではおざるまいか。御出家とも聞けば、きっと執権どののお怒りも解けようにと、主君義貞もお案じの余りに申しおりまいたが」
と、すすめおった。
ふざけたことを。
おれは佐々木道誉とは違う。道誉のようなお上手もできないし、本心からの出家など、なお真ッ平だ。この青春の黒髪を剃ろしてまで詫びせよとは、八幡殿の裔と口ぐせにほこる、父もいうまい、母も願うまい。
……ふ、ふウん。
いらざるおせッかいといわぬばかりに、愍笑をくれたので、新田の老臣は、顔あからめて、あの時は退ッこみおった。
が、そんなことは、今の高氏には、腹の虫がおさまる何の足しにもなりそうもない。
――さても、知りたいのは、その後の世上のうごきである。蝦夷の乱は、どうなったろう。都における若公卿輩のうごめきは?
「もしおれが、堂上公卿の一人だったら、やはりじっとはしていまい。何かやるな。いまのような幕府を見ては」
それにしても、右馬介はどうしたろうか。