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しほんたいへいき
私本太平記(一)
吉川 英治
Read 私本太平記(一) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 246,214 characters · 495 screens
「まだ、血迷いを仰っしゃるのか」
清子は、それきり黙って。
「見下げた和子よのう」
あとは、直義の身もだえにまかせたまま、彼女は彼女自身がとるべき道を、じっと、眉に思い沈める風だった。
「……なりませぬか。母上」
「なりませぬ」
「どうあっても」
「鎌倉におわす父君におききなさい」
「父上にあわせる顔などありません。ああ、どうしたらいいか、このお詫びは」
「直義どの」
「はい」
「すこしは落着きましたか」
「落着いているつもりです」
「ならば、お寝みなされたがよい。明日ともなれば、あとの始末は母がつけまする」
「どう御思案を」
「子のしたこと」
「…………」
「高氏どのを旅へ出したのも、その兄を思うての、あなたの失慮も、みなわらわの至らぬところから起ったもの。……そうつつみなく打ち割って、この母が、新田殿の世良田の屋形へ、自身お詫びに行きましょうわえ」
「えっ、恥をしのんで」
「恥などはいうていられぬ」
「が、足利家の北の御方が、ついに意地をすてて、世良田の義貞殿の前に詫びを入れに行ったわ、と人々にいわれては」
「なんの。なんのいのう。……嘲う者には嘲われておりましょう。あなたの、おいのち一つにも代えられまい。