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しほんたいへいき
私本太平記(一)
吉川 英治
Read 私本太平記(一) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 246,214 characters · 495 screens
まことや、高氏どのの若党、右馬介よの」
「若殿御上洛のみぎり、六波羅のおやしきにて、お目にかかりまして以来なれば、足かけ三年に相なりまする」
「そちもたしか、主と共に罪を問われて、牢舎と聞いていたが。……ま、ここでは話もならぬ。わしについて、まずまいれ。憲房の屋敷のうちへ」
右馬介が、陽の目を見たのも、ごく近頃のことである。
かつて、高氏が幽閉の厄に会った日、当然彼も、忍び上洛の供人というかどで、その場から鎌倉表へ逆送され、以来、きびしい取調べをうけたのだった。
が、彼の頑固な緘黙には、白洲の奉行人も、もて余したことらしい。やがて、郷里の三河幡豆郡へ送り返され、郷党たちによる共同の責任のもとに“牢舎預け”となっていた。
「そうか、そちの身は、いずこに牢舎されたかと案じていたが、郷党預けに付されておったか」
上杉憲房は、彼を自邸に伴って、委細を聞き終り、
「しからば、そちに対しても、赦免が達せられたので、さっそくこれへ見えたのじゃな」
「御意の如くで」
と、右馬介は語りつづけた。
「何はおいても、若殿のご無事を見ねばと、三河を立って、足利ノ庄へいそぐ途中、又太郎高氏様には、はや鎌倉の府においであるやの噂も聞き、さてはと、この地へまいりましたなれど」