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しほんたいへいき
私本太平記(一)
吉川 英治
Read 私本太平記(一) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 246,214 characters · 495 screens
みゆき先は、つい京極の大炊御門なので、関白、諸大臣、公卿殿上人ら、すべて供奉は徒歩であった。
それにせよ、列の流れははなはだおそい。
せまい四ツ辻などにさしかかると、まるで林みたいに立てた両側の民家の門松の枝が、おん輿の御帳につかえて、内なる龍顔をふとあらわにしたりした。
道に白砂をしき、軒に門松を立て渡す風は、その頃には、正月だけの景色でなく、大行幸やら祭渡御には、令が出て、時を問わぬ慣いであった。が、時により土地によって、竹、さかき、椎、しきみ、椿なども立てたりはする。
いずれはこれも、唐風俗の移入からであろうが、要は、民家の貧しさをおおうためにあったのだから、帝室では、由来、門松は立てなかった。
ほどなく、おん輿は、京極おもての院の棟門につく。
夙に、お待ちうけらしいたたずまいである。院司の上奏あって、すぐ乱声(雅楽部の合奏)のうちに、鸞輿は、さらに中門へ進められた。
みかどの父ぎみ、後宇多法皇は、まだ五十五、六でおわせられた。が、御愛人の遊義門院の死に会うて、御法体となられてからは、俄に、老けまさッてお見えであった。
が、ひとつには。
二ノ御子尊治(後醍醐の御名)の即位をやっと見給うたこと。