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しほんたいへいき
私本太平記(一)
吉川 英治
Read 私本太平記(一) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 246,214 characters · 495 screens
「いいえ、わらわは戻りまする」
「ならん。頼春の顔を見たら、そちはまた、ここへ来たことを、隠しえまい」
「でも、夫婦の仲、怒られても、いッそ申さいではいられません。ただ、どうぞ良人が罪になりませぬように」
「頼まれずとも、娘の聟だわ。……はアて、これは気ぜわしないことになったもの」
利行は、すぐ馬をとばして、出て行った。やがて六波羅総門を入って右へ、倉奉行の役所に駒をつなぎ、すぐ北ノ探題、常盤範貞の召次へ、
「四郎左こと。常盤殿直々に、火急、申しあげたい大事なござる。後刻といわず、すぐお目通りを給りたい」
と、申し入れた。
折ふし、北ノ庁では、常盤範貞を中心に、府臣数名が、錠口を閉じて、何か密議をこらしていたのだった。
「なに。四郎左が?」
錠口の取次を聞き、範貞は、ほかの顔を見廻した。
「どうする、各※(二の字点、1-2-22)。……倉奉行はちと職ちがいだが、凡事ではないらしい」
ここには、さきに宮中御産祈祷の件で、その真相調べのため、鎌倉から派遣されていた武者所の雑賀隼人、長井遠江守。
そのほか、六波羅大番の小串三郎則行、山本九郎時綱なども、顔を硬めて、詰めあっていた。