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しほんたいへいき
私本太平記(一)
吉川 英治
Read 私本太平記(一) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 246,214 characters · 495 screens
騎馬には工藤右衛門次郎、諏訪三郎兵衛の両使のほか、直訴の証拠人として、波路の父、斎藤四郎左衛門利行もまた、列のうちに加わっていた。
要するに、事々、幕府の示威であり、二荷の張輿は、かくて東海道の宿々を、よい見世物とされて行くにちがいない。
しかし張輿の上の二人――俊基の眉にも、資朝の姿にも、人目を辱じる風はなかった。悪びれず、硬ばらず、群集には、それが立派にすら見えた。だから、結果としては、権力者の示威も、かえって逆なものを、民衆の胸に、植えていたかも知れないのである。
列は、幾たびも、立ちよどむ。わけて粟田口から蹴上への、坂の辻では、
「退けい。退きおろう」
と、武者輩が、声をも嗄らす程だった。
蹴上を越えれば、京も出端れる。
「そこまでは……」
と、五条辺から、輿の後について来た群集も多かったのだ。俊基の眼も、
「……おお、いずれも密かに、見送りに来ていてくれたの。あの女、あの媼、あの法師」
以心伝心。
揺れやまぬ沢山な顔のうちでも、知り人の顔はすぐ眼にとまる。微笑で応えると、先も涙するやら、胸に手を合せて、黙送の姿、さまざまだった。
「……や、菊王も」