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しほんたいへいき
私本太平記(一)
吉川 英治
Read 私本太平記(一) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 246,214 characters · 495 screens
「――冬信。いずれもへ、告文の奉書を廻して、一覧に入れよ」
やがて後醍醐のおんみずからな、おさしずであった。
草案には、さまざまな意見が出た。
「かりそめにも、天子のみことのりとして、かかる辞句は、御威厳にかかわろう」
「これでは、あたかも関東への詫び状か、上が臣下へ、誓書を与えるようなものに似る」
「あくまで、朝威を失わず、しかも日野資朝らの陰謀には、何ら、みかどには御関知なしとする、そこの辺を、もそっと強調すべきではないか」
等々々、文章上のことなら、公卿の得意とするところである。末梢の論議となると、なかなか尽きない。
だが、遊戯沙汰の文章とはわけが違う。もし執権の一蹴に会ったらそれまでだ。すでに鎌倉では、現帝の後醍醐に、御出家をすすめるべきであるとか、いっそ遠流し奉るべしとか、極端な論もあると聞えている。
「やむを得まい。辞句の端などに余りとらわれるな。そもそも、告文その物が、すでに謀の一つであろうが」
最も御無念であるべきはずの後醍醐が、究極では、最もあざやかな御観念ぶりであった。
「さは申せ、みなの意見には、捨て難いふしもある。冬信、まいちど案を練って、清書してまいれ」