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しほんたいへいき
私本太平記(一)
吉川 英治
Read 私本太平記(一) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 246,214 characters · 495 screens
城ノ介、それにて読め」
「はっ」
秋田城ノ介は、三方を押しいただいて、広間の中央へ戻って坐った。そして高時の方へ向って、告文を読み上げた。
ここで「太平記」の原本には、腑におちない一条が見える。告文の読み人を、かの斎藤利行として、その利行が文中の、
叡心、偽ラザル処
天ノ照覧ニ任ス
とまで、読みくだして来たところ、たちまち眼がくらみ、鼻血を出し、ついに読み終ることも出来なかったのみか、七日ほど後、喉の悪瘡(できもの)から血を吐いて死んでしまったということになっている。
つまらぬ作為である。当時、彼も鎌倉へは来ていたが、それは日野資朝、俊基の審議に加わるためだった。身分の上でも、彼が勅書を読むなどは、あり得ない。
このあと。
幕府の内部では、対朝廷策に異論百出、さまざま揉めた様子もある。だが高時の、
「何事も穏便がよい。穏便に」
という言が、こんども最後の重きをなし、勅答は穏やかに、先の告文とあわせて、朝廷へ返進された。これで一応、事変は解決したかに見えた。
とはいえ、日野資朝と俊基の身は、依然、解かれず、その年、正中元年も、ほどなく暮れた。
ぶらり駒
表面、あくまで無事を衒って、北条の世は、ゆるぎない泰平と見せておく。