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しほんたいへいき
私本太平記(一)
吉川 英治
Read 私本太平記(一) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 246,214 characters · 495 screens
「倖せとな」
「はい」
「不倖せとは思わぬのか」
「思いもいたしません。ここの上杉殿では、御一家みなで可愛がって下さいますし、琵琶の道に入っては、都で二となきお師にお教えいただいておりまする。道についた以上、覚一はきっと名人になってみせます。成らいではおきません。そんな望みに、日々、胸ふくらませておりますゆえ」
しげしげと見れば、針のような筋しかない無明の眼にも、内には燃える希望を持って、この小法師は、しんから身を楽しいものとしているらしい。
又太郎は、彼の肩においていた手で、そこを一つ叩いて、
「よし、きっと上手になれよ」
「なります」
「足利ノ庄へ帰ったら、鑁阿寺の女尊堂におられる尼の母者へ、そのとおりにつたえて上げる。……が、ひとの母にはそう出来ながら、自分の母にはなぜ何も与えられぬわしであろうな」
「そんなことはございません。揃うておいでなのが無上のお倖せです。どうかあなたも、足利家の御息子としてお立派なお方になってください。私も負けずに励みますから」
「つらいぞや、お汝にそう誓われては。なあ、右馬介」
「まことに、盲の一念とでは」
「右馬介さまも、はやお支度ずみでございますか。