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しほんたいへいき
私本太平記(一)
吉川 英治
Read 私本太平記(一) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 246,214 characters · 495 screens
伯父の憲房は、その夜も、次の日も、藤夜叉のことについては、何もいわない。
高氏にすれば、それもまた、こそばゆかった。彼らしくもなく、当座は父や伯父の顔いろがつい見られてならなかった。
しかし、数日の邸内は、そんなものを、たれの胸にも置かせない忙しさだった。
――貞氏すらも、家臣の肩にたすけられて、その病間を出で、新装された広間や、若夫婦のために改築された新殿のあちこちを、見て廻って、
「見ちがえるようになったの。これで、身の宿痾さえなくば……と思うが、しかし高氏のためには、父が頼りにならぬのも、かえって覚悟の上にはよかろう。これを機に、高氏に当主を譲って、名実共に、わしも入道、隠居の身となろう」
と、洩らすなど、とにかく下屋、釜殿のお末まで、盆と正月がいちどに来たような明け暮れだった。
その上にもまた、
「いよいよ、明後の夜は、嫁君のおん輿入れ」
と、かれている前々日。
足利ノ庄の国もとから、高氏の母清子が、次男の直義、老臣、それに草心尼と覚一の母子までをつれて、ここへ着いた。
いや、そのほか、三州知多の吉良、仁木、斯波、一色、今川など、足利支流の族党たちの家々からも、名代、あるいは有縁の者が、