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しほんたいへいき

私本太平記(一)

吉川 英治

Read 私本太平記(一) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 246,214 characters · 495 screens

Aozora Bunko

彼の低く崩した姿勢がすでにそれを示しており、道誉の挑戦に応ずるごとくくちびるを舐めた。

「……な、なンと仰せか。近江の婆娑羅どの。も、もう一ぺんいって欲しいなあ」

居ずまいをかえかけたが、また腰をくだき、ぺたと、片手を後ろへついた。

登子は、おろおろした。

いかに無礼講でも御前である。もし執権の激怒にふれてはと、良人の袖を無意識に引く。

が、高氏はその新妻の手も払って、邪けんにいった。

「登子、まだいたのか。なぜ、さッさと退出せぬ。だ、だれが何ンと止めようが、そなたはわが妻。良人の命だ。帰れ、帰りおろうっ」

「ま。そうお叱りあるな高氏殿」

道誉は、あくまで口さがない。

「何もご存知ない北ノ方へ、そう、がみがみな仰せは自体ご無理だ。登子の君こそ、お気のどくよ」

「いらざるご斟酌でおざる、ひとの妻に」

「げにもナ」

と、苦笑を放っておいて。

「藤夜叉、藤夜叉。――いつもそちが、ひと目拝みたいと望んでいたお二た方、いま眼に見せているものを、なぜ、お杯でも給われと、願って出ぬか」

「ま、お戯れにも程がある――」驚きの余り、彼女は、高時の前もわすれてさけんだ。

「ちがいます。