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しほんたいへいき
私本太平記(一)
吉川 英治
Read 私本太平記(一) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 246,214 characters · 495 screens
すると今し、その妖霊星の一ツにも似て、メラと赤い焔の翼をもった大きな火の粉の一ツが、尾を曳いて、鶴ヶ岡社頭の森へ消えこんでゆくのが眼を射た。
ふと、それに眸を吸われたものか。
高時は、舞っていた手の薙刀を、ふいに、小わきへ持ち直すと、その光芒を追っかけて、
「あッ。そこにも」
と、憑かれたように大廊下を駈けだしてゆき、とたんに、勢いよく、転びかけた。
その高時と共に駈けて、彼を抱きささえた家臣の二人も、かえって、彼の怪力に振りとばされた。高時は、肩を揺すって、哄笑を揚げるのだった。――と思えばまた、たちまちクルリと踵をめぐらして、辺りに恐れ怯んでいる烏天狗の群れを見すえ、それへ向って、左右の足高々と、舞拍子の一歩一歩を、踏み出して見せながら――
木々は知る
露は知る
如法暗夜にも一眼あり
と、薙刀舞もあざやかに、しかし、何十ぺんでも、同じ歌をくりかえすのだった。
……鞍馬おろしも誘ふ
魔界外道の谷はここ
恟み足の田楽役者たちも、ぜひなく、高時の影を繞り、また、ツレ舞しては、再び踊った、踊り狂った。
だが、狂乱の人には、飽くことがない。ついには、肉体的な限界において、彼は急にバタッ――と仆れてしまった。