Japanese reading practice

Read classic Japanese books with furigana

ja-reading.com

Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.

しほんたいへいき

私本太平記(一)

吉川 英治

Read 私本太平記(一) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 246,214 characters · 495 screens

Aozora Bunko

以前の足利とんぼの一領主ではない。義貞が待つと聞けば、なおさら来まい――と、彼には、半ば期待もされなかった。

ところが、七里ヶ浜のその日、午さがり頃。

道誉は自身、高氏を伴って、何の触れもなく、義貞のいた奥の書院へ案内して来たものである。

「やっ。新田か」

高氏には、義貞の姿が、不意だったらしい。ふと、立ち入りかねた足もとだった。

「オオ、足利よな」

義貞があわてたのは、ちと意味がちがう。

彼の膝には、ゆうべからの仮粧坂の女がしなだれかかっていたし、昼酒の杯盤なども、ちらかっていた。

義貞は、こんな行状を、ひとには見られたくない性だった。ましてや高氏にはである。いそいで座をあらためる彼に、女などは、けがらわしきものみたいに、振り退けられた。

「これや、御亭主には、おひとが悪いぞ。触れもなく、不意に余人をお通しあるとは」

「はははは。だが新田どの、それくらいは、ゆるされい。――御覧ぜよ、高氏どのは、もっと呆れ顔だ。じつ申せば、ここの廊口まで、高氏どのには、何も明かしてなかったのだ。どうです! かかる不意な一会もまた、愉快ではあるまいか」

彼は、ひとりで自己の作為を愉しんでいう。