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しほんたいへいき
私本太平記(一)
吉川 英治
Read 私本太平記(一) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 246,214 characters · 495 screens
――まことに、仏天の冥護ならんと、その折も、孔雀明王の御壇に、われら、いかばかり謝し奉ったことかしれませぬ」
「…………」
答えないでも、山伏の方はいくらでも、問わず語りにしゃべりつづける。といって、耳もふさげず、弁ノ殿とよばれていた日野俊基も、ついには、藺笠の翳からキラとその眼を彼の額に射むけた。
「山伏」
「は」
「そちの行場は、大峰か葛城か、または羽黒か」
「入峰三度の大峰の修験者にござりまするが、月のうち十日は、当麻寺の行院へ参ッて、役僧座に勤めておりまする」
「名は」
「当麻寺の八荒坊と申す者」
「八荒坊か。覚えておこう」
「して、あなた様には、東大寺行幸の御帰洛にも供奉なされず、軽いお身装で、そもいずこへ」
「わしか。わしは絵所の絵師だからの」
「へへへへへ」
「身まま気ままよ。みかどの供奉にも及ばんのさ。ところで、八荒坊とやら、ちょっと待て。そこに立って、わしを見ておれ」
「な、なんの御用で?」
「よい面がまえだ。その面、似絵(似顔)に描いてつかわそう。しばし、うごくまいぞ」
腰の筆苞から絵筆を抜き、料紙綴を片手にして立ち対うと、何と考えたか、八荒坊は、燕返りに飛びすさッて、