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しほんたいへいき
私本太平記(一)
吉川 英治
Read 私本太平記(一) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 246,214 characters · 495 screens
いざ疾う御馬上に」
武士はみずから馬の口輪を取り、連れの若党を叱咤して、元の道へ走らせた。彼らの在所篠村の領家(領主の代務所)へ先触れさせたものだろう。
丹波篠村ほか数ヵ村は、下野国とは遠く離れているが、足利家代々相続の飛び領の地だった。同様な小領土は、他地方にもあり、ここだけではないのである。
で、そうした離れ領土には、本国から一族の確かな者をやって、そこに土着させておく。年貢取立ての代務やら主家との連絡など、つまり国司の目代と似たようなものだった。
「おう、お見えらしい」
領家の門前には、先ぶれをうけた代官の松永経家、書記の引田妙源などが、驚き顔を並べて出迎えていた。
――頃はもう夜半をすぎた時刻だった。
「経家、昨夜は夜半に驚かしてすまなんだな」
むさぼり眠って、さて醒めて、湯浴み食事などもすました翌る日。
一室には、又太郎のための上座が設えられていた。代官の松永経家は下座に平伏して。
「どう仕りまして。御本国におわせば、かけ替えもない大事なお体。その君が、どうしてと、一時は胆を冷やしましたが、やがて御仔細を伺って」
「はははは、胸をなでたか。……ところで経家、さっそくだが、脚のよい駒二頭に鞍をおかせ、旅糧なども、着けさせておいてくれい」