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そうもくちゅうぎょ
艸木虫魚
薄田 泣菫
Read 艸木虫魚 (そうもくちゅうぎょ) by 薄田 泣菫 (すすきだきゅうきん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 114,254 characters · 226 screens
醜さを人に見られまいための用意に過ぎなかった。鯛はアンチゴノスと違って、眼は二つともいい分はなかったが、魚のならわしとして、一つの側面に一つの眼をしか持っていなかったから、籠のなかに寝かされたのでは、その一つの眼でものを見るより外に仕方がなかった。
イギリスに小説家として、また下院の議員として相当聞えた A. W. Mason という人がいる。この人はいつも片眼鏡をかけていて、好きな水泳をする場合にも、滅多にそれをはずさないそうだ。あるとき汽車のなかで、その眼鏡を壊したことがあった。すると、片眼が急に風邪をひいてしまったそうだ。鯛もしおっぱい海の水を出て、じかに空気に触れるので、よく風邪でも引いて充血したように、真っ赤な眼をしているのがよくある。
鯛よ。お前の眼は、これまで外界の自然を、自分の行動と平行してしか見なかった。お前の見る外界は、お前が鰭を動かして前へ進むときには、同じように前へ進み、お前が脊後へ退くときには、同じように背後へ退いた。正面から来て、お前の口さきにぶっつかるものは、お前の眼で見た外界ではなかった。お前は前に立っているものを永久に見ることが出来ないのみならず、左の眼で見たものは、右の眼で見たものとはすっかり違っていた。