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そうもくちゅうぎょ
艸木虫魚
薄田 泣菫
Read 艸木虫魚 (そうもくちゅうぎょ) by 薄田 泣菫 (すすきだきゅうきん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 114,254 characters · 226 screens
そしてときどきいかにも不審に堪えないように小首をかしげては、何やら口のなかで独言をいっているらしかった。
しばらくすると、程近い樹のかげから一人の農夫がのっそりと出て来た。
「坊さん。あんたそんなところで何してはりまんね。」
善光は手をあげて頭の上の枝を指ざした。
「あすこに変なものがぶら下っている。あれは何というものかしら。」
「変なもの。どれ。どこに。」
農夫は善光の指ざす方角を見あげた。そしてはじけるように笑い出した。
「はははは。あれ知んなはらんのか。蜜柑やおまへんか。」
「蜜柑。」善光はいぶかしそうに農夫の顔を見た。「何ですか、蜜柑というのは。」
「蜜柑を知んなはらんのか。」農夫はおかしそうな表情をして善光を見かえした。旅の坊さんは牛のようなとぼけた顔をして立っていた。農夫は爪立ちをしながら手を伸ばして、枝から蜜柑の一つをもぎとった。「まあ、あがってごらん。おいしおまっせ。」
善光は熟しきった果物を手のひらに載せられたまま、それが火焔のかたまりででもあるかのように眼を見張った。
「食べられる、これが……」
善光のもじもじしている容子を見た農夫は、おかしさに溜らなさそうにまた笑い出した。