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きょうしゅうのしじん よさぶそん

郷愁の詩人 与謝蕪村

萩原 朔太郎

Read 郷愁の詩人 与謝蕪村 (きょうしゅうのしじん よさぶそん) by 萩原 朔太郎 (はぎわらさくたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 39,038 characters · 78 screens

Aozora Bunko

草の雨祭の車過てのち

こうした平安朝懐古の句は、他にも沢山作っているので、参考のため、次に数句を提出しよう。

折釘に烏帽子かけたり宵の春

春の夜に尊き御所を守る身かな

春雨や同車の君がさざめ言

ほととぎす平安朝を筋かひに

さしぬきを足で脱ぐ夜や朧月

引例を見ても解るように、特に春の句においてそれが多いのは、平安朝の優美でエロチックな文化や風俗やが、春宵の悩ましい主観において、特にイメージを強く与えるためなのだろう。芭蕉における木曾義仲の崇拝や、戦国時代への特殊な歴史的懐古趣味を、一方蕪村の平安朝懐古趣味と比較する時、両者の異なる詩人的気質が、おのずから分明して来るであろう。

(備考。この句の第三句は、多くの句集に「なりけり」となってるが、平安朝の言葉をもじった「なんめり」の方が、この場合ユーモラスで面白い。)

草の雨祭の車過てのち

京都の夏祭、即ち祇園会である。夏の白昼の街路を、祭の鉾や車が過ぎた後で、一雨さっと降って来たのである。夏祭の日には、家々の軒に、あやめや、菖蒲や、百合などの草花を挿して置くので、それが雨に濡れて茂り、町中が忽ち青々たる草原のようになってしまう。古都の床しい風流であり、ここにも蕪村の平安朝懐古趣味が、ほのかに郷愁の影を曳いてる。