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きょうしゅうのしじん よさぶそん

郷愁の詩人 与謝蕪村

萩原 朔太郎

Read 郷愁の詩人 与謝蕪村 (きょうしゅうのしじん よさぶそん) by 萩原 朔太郎 (はぎわらさくたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 39,038 characters · 78 screens

Aozora Bunko

笠島はいづこ五月の泥濘道

死にもせぬ旅寝の果よ秋の暮 枯枝に鴉の止りけり秋の暮

何にこの師走の市へ行く鴉

しかし詩人であるところの芭蕉は、救世主として世に立つ代りに、万人の悲しみを心にはぐくみ、悲しみの中に詩美を求めて、無限の寂しい旅を漂泊し続けた。

笠島はいづこ五月の泥濘道

芭蕉の行く旅の空には、いつも長雨が降りつづき、道は泥濘にぬかっていた。前途は遠く永遠であり、日は空に薄曇っていた。

死にもせぬ旅寝の果よ秋の暮

枯枝に鴉の止りけり秋の暮

曠野の果に行きくれても、芭蕉はその「寂しおり」の杖を離さなかった。枯枝に止った一羽の烏は、彼の心の影像であり、ふと止り木に足を留めた、漂泊者の黒い凍りついたイメージだった。

何にこの師走の市へ行く鴉

年暮れて冬寒く、群鴉何の行く所ぞ! 魂の家郷を持たない芭蕉。永遠の漂泊者である芭蕉が、雪近い冬の空を、鳴き叫んで飛び交いながら、町を指して羽ばたき行く鴉を見て、心に思ったことは、一つの「絶叫」に似た悲哀であったろう。芭蕉と同じく、魂の家郷を持たなかった永遠の漂泊者、悲しい独逸の詩人ニイチェは歌っている。

鴉等は鳴き叫び

翼を切りて町へ飛び行く。

やがては雪も降り来らむ――

今尚、家郷あるものは幸ひなる哉。

東も西も、畢竟詩人の嘆くところは一つであり、抒情詩の尽きるテーマは同じである。