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ずいひつ みやもとむさし
随筆 宮本武蔵
吉川 英治
Read 随筆 宮本武蔵 (ずいひつ みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 141,786 characters · 278 screens
伝写本から活字の近刊書にいたるまで、同じ史料の並列だ、この書にあってあの書にないというような掘り出しの記事は絶対にない。あれば俗説の尾鰭か編者の史眼の混濁である。――ただそれらの書でも役に立つことは内容の文字よりは、書物の性質を見ることだ。また、採るに足らない口碑や異説にも微量な真実の影はあると見てよいし、時に大きな暗示を得る場合もあるからである。
宮本家の祖は元平田姓であった。明応文亀年間、平田将監という者があって、剣及び十手術に長じ、美作吉野郡の竹山城城主新免氏に仕えたのが中興の人となっている。
明応文亀というと、さあすこし遠い。山名、細川、畠山などの騒乱が頻々で、伊勢の野武士新九郎が北条早雲となる羽がいの身づくろいをしながら、よい時世だと野望の眼をあげ出した時代である、武蔵が生れる九十余年前だ。
平田氏系図では、十手術も剣術も、その当時からあることに明記されているが、あることはあっても、本朝剣道の流派の祖ということになっている鹿島香取の飯篠長威斎、松本備前守もまだ出ない時代だ。勿論、上泉伊勢守も、有馬乾信も、塚原卜伝もずっと後だ。その頃すでに、剣と十手術で竹山城に奉公したものとすると、武蔵の血は、家すじの剣人であったといえる。