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ずいひつ みやもとむさし
随筆 宮本武蔵
吉川 英治
Read 随筆 宮本武蔵 (ずいひつ みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 141,786 characters · 278 screens
「今、薬を進ぜる」といって、薬と木綿を持って来て与えた。
三宅軍兵衛は、その後、武蔵に師礼をとって、深く武蔵に心服してしまった。この話は、軍兵衛の口述として写本に伝わったもので、それも武蔵の逸事を伝えるために書かれたものでなく、故殿(本多出雲守)のお供をして、大坂陣に加わった合戦の思い出話として、よく他書にもあるように書き伝えられたものらしいのである。
その軍兵衛が、常々、語り草にしたことには、自分の生涯のうちで、怖ろしいと思ったことが二つある。その一つは、故殿のお供をして、夏の陣にあった折、その日は城方の真田、毛利、すべての諸将が、討死の覚悟とみえた日なので、こちら方の越前様も、小笠原様も、必死のていにお成りなされて、刻々両陣が迫り合った時は、何となく陽も暗くなり、物音といってはただ他の戦場の人馬の叫喚が遠く聞えるばかりで、両軍とも一瞬、槍をそろえて見せ合ったきりで、何ともいえぬ殺気の中に寂となって、誰も出る者もなかったが、思いきって、自分が真っ先に槍をすすめ、それから乱軍になり、お味方は殆ど討死のからき目に遭ったが、ちょうど宮本武蔵という者に、初めて会って、あの二刀をさげて戸口から出て来た時には、大坂陣の折の槍前よりも一層凄いものを覚えて、瞬間、気怯れがしたが、それがすでに自分の敗けであったのだ――