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ずいひつ みやもとむさし
随筆 宮本武蔵
吉川 英治
Read 随筆 宮本武蔵 (ずいひつ みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 141,786 characters · 278 screens
である。
明治から大正頃の野田家の当主は、野田鋤雲といって、井芹経平氏を黌長とする熊本の済々黌の剣道と図画の先生をしていて、N氏や同氏の友人たちの仲間に、その鋤雲氏の子息も学友であった関係から、遊びに行った折など、その長持の中の雁刷毛だの遺墨を見せられたこともあるそうだ。
で、当年の記憶から、N氏は私を同行して、その野田家を訪れ、遺品を見せてもらうことになっていたのだが、熊本在住の人に聞いてみると、その野田家はもう十数年前に、家宅も売払い、所蔵の品もすべてその前に散逸して、野田家の人々の行き先も消息も、今では知る者がないとのはなしであった。
そういう噂が出るたびに、N氏を始め熊本の人たちが、口を極めて惜しがっていたのは、武蔵の遺品がいっぱいあったという長持のことだった。
聞いてみると、野田家の息子は、父鋤雲氏の歿後、さかんに遊蕩したらしいのである。何でも長持のなかには、武蔵が書損じた画稿の反古が、元結で束ねてあったりしたものだそうである。それを息子殿は、遊びの金をつくる度に、町の書画屋を連れて来て、長い間にぼつぼつ売ってしまったというのだ。
ひと束に、丸めてあった画稿という中には、達磨の図とか、達磨の顔とか、肩のあたりまでとか、未完成で反古とした書損じが、同じ図ばかり何枚となく一まるめにしてあり、花鳥画