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ずいひつ みやもとむさし
随筆 宮本武蔵
吉川 英治
Read 随筆 宮本武蔵 (ずいひつ みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 141,786 characters · 278 screens
それと、この画は、武蔵の画の定規とされている水墨でないこと。破墨一掃のあの調子でなく描線は一筆一筆慎重に引かれ、面貌や毛髪などにはかなり密な筆がつかわれている。のみか、祖師の衣には朱が施してあり、顔には代赭を耳の環には極めて微かながら金泥を落したらしい色すらある。彩画なのだ。武蔵の画にはほとんど見ないといわれているこれは彩色図なのである。
一見して、いけないと感じた。だが、祖師の眼光や、彩色の折、生乾きの朱泥のうえに、強く太く引いた描衣の線のつよさに打たれて、凡手ではない――武蔵の画ではなくても――これは凡画ではないと、なお見ているうち、題詩の文字に、また強く心をひかれだした。
賛をしている人も、いったい誰か、僧門の人には違いないがと、もう一度見直すと、
前法山 東寔敬題 ※
千古難消満面埃
龍顔不悦赴邦出
梁王殿上一徘徊
十万迢々越漠来
これも最初私は、この通りに右から読んでいたのであるが、後に、新井洞巌翁からわらわれて、すべて敬題というふうに謹んで賛語を書く場合のものは、左が初句で、左から読んで筆者の落款が末尾となるのですと教えられた。
それはとにかく、画にはいろいろな疑問もわくが、書は微塵も俗臭のない、しかも墨色もいちども水をくぐっていない、いかにもありのままなものなのである。