Japanese reading practice

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なるとひちょう

鳴門秘帖(一)

吉川 英治

Read 鳴門秘帖(一) (なるとひちょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 262,100 characters · 523 screens

Aozora Bunko

もう決して案じることはないぞ」

「せっかくですが……弦之丞様、そのお骨折りは無駄でした」

「な、なんと申す。この弦之丞がそちを取り返したのが無駄じゃというか」

「無駄です! わ、わっしゃ、ちっともうれしかあありません……」

「うれしくない?」

弦之丞はせきこんだ。彼としてこれまでの力を尽して助けた者から、こんな情けない言葉を聞こうとは、あまりに心外であるに違いない。

静かに鵯が啼いている。

万吉は、あたりの死骸を谷間に蹴こんで、あっちこっちを見張っていた。

「弦之丞様……」銀五郎は、傷手を忘れて改まった。

「さだめしお腹が立ちましょう。命がけで助けた者が、うれしくないの無駄だのといえば、誰だって、むっとするのが当り前です。……ですが、嘘の嫌いな唐草銀五郎、まったくうれしくございません」

「心得ぬことを申すではないか。腹蔵なく、そのわけを承ろう」

「申しましょう……これをいわないでどうするものか」

ほッと熱い息をついた。

こらえてはいるが、あれほど出血した銀五郎は、深傷でよほど体も疲れているとみえ、眼の縁には青い蔭が隈どっており、きれぎれにいう声にも、どこかしら精がない。