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なるとひちょう
鳴門秘帖(一)
吉川 英治
Read 鳴門秘帖(一) (なるとひちょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 262,100 characters · 523 screens
「それは……いっておいたほうがいいかも知れない。そうすれば、お前さんも、自分のしていることが、どんな無駄だか、はっきり分ってくるだろうから」
「そんなことはどうでもいい! その男の名を聞こう。それをいえ」
「私の胸に誓っている人は、天涯無住の御浪人でね……」
「ウム、してそいつは」と、お綱の揶揄がやや深刻にすぎたので、孫兵衛、左につかむ助広の鍔をブルルとふるわせ、瞋恚の炎を燃えたたせる。
「……法月弦之丞というお方。お十夜さん、私に指でもさす気なら、すみませんが、その人に断ってきて下さいよ」
「よし! おれもお十夜孫兵衛だ」
「どうするの」
「よくも恥をかかせたな!」ジリジリと寄ってきたので、さては抜き浴びせるのかと思うと、孫兵衛は、ふッ……と行燈を吹き消してしまった。
部屋の中は真ッ暗となった……。
すばやく、行燈を吹き消したお十夜の意は、問わでものこと。
お綱はトンと身を退いた。
が――咄嗟に立とうとした体は裾の重みと、瀬戸物へつまずいて、よろりと、元の所へ仆れてしまった。
「おい、どこへ行く気だ」
憎々しいお十夜の嘲り顔が、闇にも目に見えるような気がして、お綱はまたカッとなった声走りで、