Japanische Klassiker mit Furigana
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みなかみきこう
みなかみ紀行
若山 牧水
Lesen Sie みなかみ紀行 (みなかみきこう) von 若山 牧水 (わかやまぼくすい) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 102.087 Zeichen · 203 Bildschirme
腕を曲げて投ぐる姿勢に首をも身体をも傾げてはいるが、なかなか投げなかった。もどかしがって胡麻塩頭の脊の高い爺は更に二三度自身が投げて見せて、果は本気になって嗾しかけていたが、終に投げなかった。そしてその投ぐる姿勢をば少しもくずさずにじいっと其処に突っ立っていたが、やがてそろそろと三四間坂の下手に降りて行って其処から改めて振返ってまた半鐘を見上げた。その顔が二階の私からよく見えた。いつか以前のにやにやした笑顔は失せて、いかにも真剣の真顔である。それでも、歯の折れた唇頭は矢張り少しあいていた。この歯も誰かの悪戯で折られたものに相違ないと私は思った。
其処へ桑を負った客が通りかかった。この客に四本の鰹節を売りつけた爺は、何やら追従を云いながら不図またこの白痴の真面目な顔を見て大きな声で笑い出した。
私が風呂に入って出て来るまで彼は少しも前と変らぬ姿で石を持って其処へ立っていた。夏でも蚊帳を吊らぬというその野原の夕方は沼津あたりと違ってかなりに冷えた。暮れそめていよいよ青みを増してゆく山を見るのは楽しみであったが、あまりに冷えるので私は夕飯の膳に酒を添えて持って来たのと同時に、障子をしめたのであった。