Japanische Klassiker mit Furigana
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ごべんのつばき
五瓣の椿
山本 周五郎
Lesen Sie 五瓣の椿 (ごべんのつばき) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 149.721 Zeichen · 296 Bildschirme
「野田屋の治療が済んだ」と得石は妻に云った、「薬はできているか」
おくには黙って、脇のほうへ顎をしゃくった。
「それを持っていって薬礼を貰っておけ」と得石は云った、「今日の薬礼は『乙』のほうだ」
おくには手を止めて良人を見た。得石は襖を閉め、勝手へいって念入りに手指を洗った。なにか汚ない物でもこびり付いているように、爪のあいだまできれいに洗い、それから、手拭を取って丁寧に拭きながら、奥の居間へはいっていった。
「十月二十一日、今日だな」彼はそう呟きながら、部屋の一隅にある衣桁へ手拭を掛け、窓のところへいって障子をあけた、「――浮世小路の吉田屋で七つ半か、時刻はたっぷりある」
窓の外はすぐに三十間堀であった。ここは京橋水谷町だから、窓から見ると堀を縦に一望するわけで、ひき汐なのだろう、低くなった水面に、午後の冬空の硬そうな青と、ぼやけたような白い雲が映っていた。得石は眼を細めて、堀の両岸の家並を眺め、空の白い雲を見あげた。
「今日こそしめてやる」と彼は口の中で云った、「たとえ力ずくでも、今日こそしめてやるぞ」
得石は舌で右の頬へ瘤をつくり、それを静かに二本の指で撫でた。