Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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ごべんのつばき

五瓣の椿

山本 周五郎

Lesen Sie 五瓣の椿 (ごべんのつばき) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 149.721 Zeichen · 296 Bildschirme

Aozora Bunko

喜兵衛は「いや」と首を振りながら、じっとおしのの顔を凝視した。なにかを問いかけるか、訴えるような、おもいのこもった、ひたむきの凝視であった。

「なに」とおしのは油単の中へ頭を入れ、耳を近よせて訊いた、「なにか云いたいの、云っておきたいことでもあるの」

「ひと言――」と喜兵衛は喉で云った、「おそのに、ひと言、――生きているうちに」

「あたしが云うわ」とおしのはもっと耳を近づけた、「あたしが云うから聞かせて、お父つぁん、なんて云えばいいの」

喜兵衛は口をあいたが、なにも云わなかった。おしのが同じことを繰返して云うと、喜兵衛の眸子がつりあがって白眼になった。

「お父つぁん」とおしのが呼んだ。

喜兵衛の口から太息がもれ、そして、そのまま呼吸が絶えた。隙間からかすかに吹き入っていた微風が跡絶えるように、すうっと呼吸が止まり、そのまま吸う息も吐く息も聞えなくなった。

――こんな町中の、道の上で。

おしのは叫びだしそうになり、両手で口を押えて、危うく声の出るのを抑えた。

――気づかれてはならない。

こんなところで死んだことを、他人に知られたくない。決して勘づかれてはならない、おしのはそう思って油単をおろし、「やってちょうだい」