Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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きせつのないまち

季節のない街

山本 周五郎

Lesen Sie 季節のない街 (きせつのないまち) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 201.379 Zeichen · 394 Bildschirme

Aozora Bunko

それはまるで、辰弥の考えたことを、その耳で聞きつけたかのようであった。

「貯金帳はあたしが遣ったよ」と母はふるえ声で云った、「兄さんがあんなに困っているわけを話したのに、おまえは黙って出ていってしまった、血を分けたじつの兄さんが、よっぽど困ればこそ相談に来たんじゃないか」

辰弥は蒼くなり「おっかさん」と云った。院長は気まずそうに、眼をそむけながら出ていった。

「それなのにおまえは、話をよく聞こうともしなかった」と母は云い続けた。彼女の顔も蒼白になり眼尻がつりあがるようにみえた、「自分はこそこそ貯金なんかしていたくせに、親のあたしにさえ隠して、自分だけは貯金なんかしていたじゃないか、おまえには親きょうだいより、貯金のほうが大事なんだろう」

そうじゃないんだよ、あれは自分のためじゃない、おっかさんや弟たちといっしょに、もう少しましなところへ移りたかったんだ。それでも考え直して、あにきに遣ろうと思ってうちへ帰ったんだ。ぼくは自分だけのためなんて、考えたこともありゃあしないよ、辰弥は心の中でそう訴えた。しかしそれは心の中のことで、口には一と言も出さなかった。