Japanische Klassiker mit Furigana
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きょうふじょう
恐怖城 他5編
佐左木 俊郎
Lesen Sie 恐怖城 他5編 (きょうふじょう) von 佐左木 俊郎 (ささきとしろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 143.735 Zeichen · 290 Bildschirme
「蔦や! どこへ行く気なのよ? え?」
紀久子は繰り返した。しかし、蔦代は依然として顔を伏せたままだった。
「言わないんなら言わなくてもいいわ。おまえ、どこかへ逃げていくつもりなのね、蔦や!」
「とにかく、どこへ行くにしても馬車へ乗せたらどうです」
敬二郎が傍から言った。
「蔦や? おまえ、どこかへ行く気なら行ってもいいわ。とにかく、わたしたち停車場まで行くんだから、一緒に馬車へお乗り。おまえ停車場へ行くんだろう? 蔦や!」
しかし、蔦代は下駄で路面に落書きなどをしていて、顔を上げようとはしなかった。
「蔦や! 急いでいるんだから早くお乗り! 早く!」
紀久子にそう促されて、蔦代は仕方なく馬車へ寄ってきた。そして、彼女は顔を伏せたままで隅のほうにそーっと腰を下ろした。その彼女の目には、涙がいっぱいに湧いていた。
沈黙が続いた。だれも口を利こうとはしなかった。馬車も停まったままだった。馬だけがときどきぴしっぴしっと尾を振って、横腹に飛びつこうとする蠅を叩き落としていた。
「正勝! 何をぼんやりしているの? 急いでいるのに」
しばらくしてから、紀久子が言った。