Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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ろうごくのはなよめ

牢獄の花嫁

吉川 英治

Lesen Sie 牢獄の花嫁 (ろうごくのはなよめ) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 162.213 Zeichen · 325 Bildschirme

Aozora Bunko

抱擁してやまないのであった。

彼女は、何もかも忘れていた。今の辛酸も、かくまで呪われた恋の不幸さも、忘れていた。――現実に恋人と会っているような陶酔のなかに尺八を吹き耽っていた。

聞くや、とどくや。

獄中の郁次郎は、果たして、その音を、聞いたろうか。――ともあれ彼の生命は、あと、一刻に足らないものとなった。獄卒たちの長屋に飼われている鶏が、無残、まだ暗いのに、たかい声で、ひと声啼いた。

×     ×     ×

「わっ、ひでえ悪戯をしやがる! みんな、起きて来い。やい! 眼をさませよ!」

舟辰は、土間に、腰をついて、呶鳴った。

「どうしたんです、親方」

同居している船頭たちが三、四人、とび起きて、眼をこすりながら、出て来た。

「どうもこうもあるもんか、寝耳に水だ。誰だか知らねえが、おそろしい勢いで、戸を叩くもんだから、びっくりして、戸をあけると、そのとたんに、人間の死骸を、人の足もとへ抛りつけて、逃げてしまやあがった。――縁起でもねえ、いまいましい畜生だ」

「おや、老人じゃありませんか」

「これが、美い女ならば、まだ、我慢のしようもあるけれどよ」