Japanische Klassiker mit Furigana
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たでくうむし
蓼喰う虫
谷崎 潤一郎
Lesen Sie 蓼喰う虫 (たでくうむし) von 谷崎 潤一郎 (たにざきじゅんいちろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 110.066 Zeichen · 216 Bildschirme
見わたしたところ、小屋は相当の広さであるのに四分通りしか入りがないので、場内の空気は街頭を流れるすうすうした風と変りがなく、舞台に動いている人形までが首をちぢめて、淋しく、あじきなく、見るから哀れに、それが太夫の沈んだ声と三絃の音色とに不思議な調和を保っていた。殆ど平土間の三分の二まではガラ空きになっていてほんの舞台に近い方に人がかたまっている中に、顱頂部の禿げた老人の頭とつやつやしいお久の円髷とが遠くの方から眼についていたが、渡りを渡って降りて来る二人にお久はそれと心づくと、
「お越しやす」
と小声で云いながら居ずまいを直して、場を塞いでいる蒔絵の提げ重を、一つ一つ丁寧に積み重ねて自分の膝の前に寄せた。
「お越しやしたえ」
美佐子のために老人の右の席をあけて、自分はうしろに畏まっているお久は、そう云って耳打ちをしたけれども、老人はちょっと振り返って、
「やあ」
と云ったきり、一心に舞台の方へ首を伸べていた。何と云う色か、緑系統には違いないが、ちょうど人形の衣裳のように派手で渋いところのある色合いの、昔の人が十徳にでも着そうな石摺りの羽織をぼってりと着込んで、風通大嶋の袷の下に黄八丈の下着を見せ、袂の中から升のしきりへ肘をついている左の腕をそのまま背中へ廻しているので、自然と抜き衣紋になっているためか猫背が一層円々