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Japanische Klassiker mit Furigana

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なるとひちょう

鳴門秘帖(三)

吉川 英治

Lesen Sie 鳴門秘帖(三) (なるとひちょう) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 261.216 Zeichen · 521 Bildschirme

Aozora Bunko

そんな時、頭心だけが錐のように研げていた。書こうとする意気をもつ、これを書き遺すことによって、自分は犬死をまぬがれる、隠密生涯の墓石が立つ、武士の本分をつくし得る。

で、書こうとして起つのである。けれどその意気はあるが、今は精根がつづかない。精根はしぼりだしても、筆を濡らす血がもう出ない。指、腕、股、かれの全身は油液を採りつくされた漆の木の皮みたいに傷だらけだった。

十幾年もの間この山牢に生きて、たださえ痩せ衰えていたかれは、血筆をもち初めてから一層枯骨をむきだして、幽鬼のようになっていた。一行に精をきらし、半行に血が出なくなると、世阿弥は落ちくぼんだ眼を光らして洞窟の外へ出てくる。

そして、餓鬼のように、野葡萄や山苺を食べ草の茎を噛む。渓流にかがみこんで、小魚や水に棲む虫まで口に入れた。血を摂るべく食うのである。生きようとする本能よりも、筆にぬる血墨をつくるために食うのが、この場合の世阿弥であった。

ひと頃、山牢の近くに春を染めていた岐良牟草のむらさき花も散りつくして、真ッ赤な山神の錫杖や白龍胆や桔梗の花がそれに代っていた。かれはまたぎらん草にかわる色素をたずねて、それには事を欠かさなかった。