Japanische Klassiker mit Furigana
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だいぼさつとうげ
大菩薩峠1
中里 介山
Lesen Sie 大菩薩峠1 (だいぼさつとうげ) von 中里 介山 (なかざとかいざん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 200.314 Zeichen · 398 Bildschirme
「女の姿が?」
竜之助は、左の手を差置いた刀にかけて、室の中を見廻す。切れの長い目は颯と冴え返る。
お松は知らず知らず竜之助の膝に身を寄せていた。
「ハハハ」
竜之助の笑って打消す声は、かえってものすさまじさを加える。
「なにをばかげた」
お松は、竜之助の傍を離れ得ない。竜之助の傍を離れられないくらいに怖ろしいものを見た。
「あの、お武家様、昔からこの部屋には幽霊が出るように申し伝えてありまする」
「この部屋に幽霊が?」
改めて竜之助がこの部屋を見廻すと、「御簾の間」であった。
「昔、九重という全盛の太夫さんが、ここで自害をなされました」
「ふーむ」
「その太夫さんは、やんごとなきお方の落し胤、何の仔細があってか、わたしはよく存じませねど、お身なりを平素よりはいっそう華美やかにお作りなされ、香を焚いて歌をお書きになって、懐剣でここを……」
お松は、自分で自分の咽喉を指さして戦慄する。
「ふーむ、そんな由緒のある部屋か」
「でございますから、怖ろしゅうございます」
「怖ろしいことはない」
竜之助は、また首垂れて酒を飲み出す。怖ろしさから傍へ寄ったお松の化粧の香りが紛としてその酒の中に散る。