Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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いんじゅうトリステサ

橘外男ワンダーランド 人獣妖婚譚篇

橘 外男

Lesen Sie 橘外男ワンダーランド 人獣妖婚譚篇 (いんじゅうトリステサ) von 橘 外男 (たちばなそとお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 154.788 Zeichen · 299 Bildschirme

Aozora Bunko

闖入

自分ながらハッと恐れたからであった。

闖入

寝苦しいその夜も明けると、妻は相変らず冷厳な近寄り難い気品を漂わせつつ、朝餐の卓に坐っているのであった。あの顔のどこから、あんな世にも甘い蕩けるような声が出るのかと、解けぬ謎でも解くような気持で、私もまた難しい容儀を整えながら燕麦粥を啜り、ハムエッグを切り、麺麭をちぎりつつ新聞を読み、商況欄に眼を移しているのであったが、眠り足りた妻の若々しい頬には何の暗い翳とてもなく、まったく照り輝くような美しさであった。そして私も言葉を控え目に、やがて車に乗って出勤するのであったが、さて銀行が退けて、夜がくると、またもや疼くような懊悩を催してくるのであった。殊に昨夜犬と戯れているあんな甘い言葉を聞いたことが、妙に私の胸を躍るように刳って、あの声を聞くと眠られなくなると思いつつも、やはり寝台を滑り降りて扉の外に佇まずにはいられなかったのであった。しかし私の期待していたその声は聞こえてくる時もあれば、聞こえぬ晩もあり、聞けば聞いたで眠られず、聞かねば聞かぬで物足りなくて、妙に頭が冴え、このところまったく私も烈しい煩悩の虜となり果てていたのであったが、さて、そうした夜がおよそ幾晩くらいも続いた頃であったろうか。