Japanische Klassiker mit Furigana
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ろうごくのはなよめ
牢獄の花嫁
吉川 英治
Lesen Sie 牢獄の花嫁 (ろうごくのはなよめ) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 162.213 Zeichen · 325 Bildschirme
今宵、江漢が押して推参いたしたのは、敢えて、わが子可愛いのみではない。私情のみではござらん」
と、つよく言って、主計頭の方へ、
「司法の明鏡に、曇りがあっては、ご聖代の汚辱じゃ。万一、わが子が真の罪人ならば、六十年の生涯を、司法の庁に生きてきたこの江漢は、わが子と共に、舌を噛んで、同じ獄土に死ぬべしじゃ。頭を、わが子の獄門台にぶち割って、不徳の罪を、天下の親に、謝さねばならんのじゃ。お奉行! お奉行! 一目、郁次郎に会わせてくれんか。父たるこの江漢が、自ら、彼を打って、最後の吟味をいたしてみたい……」
「おお、それはよかろう」
と、主計頭も、老先生の真心にうごかされたように、
「東儀、牢の合鍵を持って、先に」
と、眼くばせをした。そして、老先生を従れて立ち上がった。
郁次郎は奉行所内の遥か奥に隔っている藪牢にはいっていた。そこにある厳重な一棟は、明和の大獄以来使ったことのない番外牢であった。
そこには、明和の大獄の折に、屍を積んだ国士たちの血のにおいが、いまもまだ陰々と漂っているかのような闇があった。四辺は、樹木につつまれている。時々、高い梢の上で、ほう、ほう、と梟の啼く声がする……。